ものいい
うつくしいものは 掌中にはなく
こうして 遠く
仰ぎ見るだけのものなのか
この夏は 厭な夏なのかもしれない
急逝したM叔父の 真新しい仏壇の前で
香をたき 手をあわせた
白衣(しらぎぬ)に包まれたお骨も まだそこにあり
M叔父が少し若いときの写真も置かれている
あんなにも大切にしていた家族を残して
叔父は どこへ行ったんだろう
今日から残暑お見舞いです、NHKの
女性アナウンサーが 朝のニュースで言ったその夜に
娘の事故を知り 病室の待合で
音のない甲子園野球を みた
娘の加害者は 21才の
一見すると 身体だけがおとなのチンピラだった
車で娘を引きずっても その場を立ち去り
警察からの呼び出しで 事故発生の5時間後に
母親と親戚だというオトナに伴なわれて 病院に現れたと聞いた
その日から一度も 見舞いという行為をしてもらっていない
チンピラの親もチンピラなのだろう
過日 事故に対しての話し合いに行ってきた
娘は県外に住んでいるので 事故も県外であり
話し合いの場所も県外である
県外のファミリーレストランの狭い個室で
親同士の対面をした 仲裁役として義兄にも立ち会ってもらった
土下座から始まるのかとおもいきや
畳に立っての 自己紹介のような挨拶をされたので
うやむやに 話し合いというものは始められた
がしかし 口火を切ったのも返事をするのも向こうの女親だけであり
脇にいる男親も 当の本人も ただ黙って聞いている
義兄が とにかく謝ってもらいたい、そう命じるように言ってようやく
彼は りっぱな体躯に反して小さく細い声で
「ごめんなさい」とだけ言った
稚拙に育った人間というものを まじかにみた気がした
映画やドラマでの役どころとしてのチンピラというものを
現実に見た気がした
怒るとき どうして体というものは震えるのだろう
卓上で手を合わせていたそのこぶしが震え
彼や彼の親の頭を このげんこつで殴ったら
さぞかし 気持ちが良いだろうとおもった
娘の事故は親にとっても事故である
けちをつける物言いも あまり効き目はなかったようである
by f-sekkou
| 2007-08-19 19:38
| 日常